英語って俗に言う男言葉・女言葉がない言語ですよね。
「~だぜ」「~だわ」「~なのよ」みたいな。
たとえば以下の言葉は、英語なら全部 This is a pen です:
- これはペンだぜ。
- これはペンだわ。
- これはペンなのよ。
- これはペンね。
ということは This is a pen を「これはペンだわ」と訳すか「これはペンなのよ」と訳すかは、訳者次第ということになりますね。
「ええ、そうね。私は寿司が好きよ。トロが大好きなの。よく食べるわ。」
なんていう大物スターのインタビュー記事も通訳の妄想で、実は
「はい、そうです。寿司が好きです。トロが大好きです。よく食べます。」
と、あっさりした受け答えだったかもしれません。
その通訳はきっと「この人が日本語を話したらきっとこう言うだろう」というキャラ付けをしているんでしょう。
だってそもそも、日本の芸能人だってそんなに馴れ馴れしく喋らないじゃないですか。
映画賞の受賞の感想だって大抵の役者さんは
「とっても感謝しているわ」
ではなく
「とても感謝しています」
って言いますよね?
原宿の“カワイイ”文化が好きなアーティストだって、きっと
「とってもキュートなの」
というよりは、英語のネイティブが直接そのインタビュー音源を聞いたら
「すごく可愛い!」
と言ってる、というかもしれません。
特にテレビのように本人が話しているのと同時にそんな字幕がついていると、勝手なキャラ付けに違和感を覚え…るとは言わないけれど、ツッコミを入れたくなり、なんか微笑ましくなります。
海外在住の日本人の伝聞もそうなりがちですよね。
たとえばカナダ人と英語で話して、日本人に日本語でそれを伝えるとき。
「あなたもやったほうがいいよ」
であろう程度のことが
「あなたもやるべきよ」
「あなたもやるべきだわ」
に変換されて、ちょっと大げさに演出されてるかもしれません。
大昔、カナダの寿司屋でアルバイトしていた時のこと。
僕は昼のシフトで、夜は別の人が入っていました。
その夜のシフトの中に、カナダ人の大学生がいたのですが(仮名でブライアンとしましょう)、シフトが違うのでずっと会う事はありませんでした。
とはいえ夜にやったことを昼に引き継ぐこともあるので、よくオーナーがブライアンの話をしていました。例えば彼は背が高いので電球を変えてくれた、とか。
オーナーは日本人なので、僕とは普通に日本語で話していました。
当然、ブライアンが言ったことも日本語に変換されます。
たとえば彼が「I can do it」と言ったら
「ブライアンが 『I can do it』 って言ってくれたの」
ではなく
「ブライアンが『僕できるよ』って言ってくれたの」
と変換して僕に伝えられます。
そこで聞く彼のキャラは、子供っぽくて、頼りなくて、でもお調子者で、ヘラヘラした人物でした。
それはオーナーがブライアンが言っていたことを“こう言ってた”というときは、間接話法ではなく直接話法、しかもモノマネ風だったからです。
モノマネと言っても彼は日本語を話しませんから、オーナーが頭の中で通訳したことを洋画の日本語吹き替えのように演じて言うわけです。
たとえばオーナーが、彼が忘れ物をして戻ってきた、というエピソードを僕に話してくれたときは、
「彼が忘れ物をしたと言って戻ってきたの。」
ではなく、
「彼が、『ボク忘れ物しちゃったんだよぉぉぉ』と言って戻ってきたの。」
と言う、といった感じです。
ところが、たまたまシフトが一緒になることがあり、噂のブライアンに実際に会ってみたところ…なんと一般的な、真面目な青年でした。
そんなアニメのキャラのように喋ってはいませんでした。
外国でホームステイした経験談などを描いたブログを読むと、
ホストマザーから
「心配ないわ、あなたの英語は大丈夫よ。」
と言われたとか、
英語学校の先生から
「あなたにとって必要なのは自信をもつことだわ。」
と言われたとか、
行きつけのカフェの店員から
「あなたが来てくれてうれしいわ。」
と言われたとか、
登場人物がみんなドラマティックな舞台俳優のような口調になっていますが、ええ、そうね、おそらく原文はもっとシンプルだと思うわ。でも英語で言われたことを日本語に言い換えるのが難しいだけなのよ。きっとそうだわ。
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